エッセイのページ その4

このエッセイは、21世紀初の同窓会、浜松南高等学校同窓会懇親会
「波濤に集う」の幹事学年だった我々六期生の同窓会テーマを芳川君
が特別寄稿してくれたものです。エッセイその3にも登場するあのエッセイ
です。当日配られた冊子の一ページ目に掲載されています。
このエッセイを、あの頃青春時代を共に過ごし、今なお青春を満喫している
我々の同朋全員に捧げます。

「ずっと青春」

芳川 峰生

 人は「愛」という言葉をなにかの弾みで書くことはあっても、口にすることはめったにない。「青春」もそれに似ている。青春ただ中にいるものは、森田健作を除いて、「おー、おれは、いま青春なんだなァ」などと海に向かって叫んだりすることはない。たいていは「嗚呼、あのときがワシの青春だったけんね」と、回想するときにその言葉を使う。森田公一とトップギャランは偉かった。やはり青春は後からほのぼの思うものだったのだ。そういう意味でも「青春」は特別な意味を持つ言葉だということがわかる。俳句に季語というものがあるが、仮に「年語」などというものがあれば、「青春」は青少年期を表すときに用いるものではなく、壮老年期について語るときに使うと効果的な年語だろう。
 そうなのだ、だから、おじさんは青春という言葉に弱い。その言葉を聞くと、薄笑いを浮かべて遠くを見たりしてしまう。カラオケでGSメドレーを一人で歌ってしまう。老眼鏡をかけずに新聞のテレビ欄を眺めていても、すぐにその文字を発見してチャンネルを合わせてしまうのだ。そうであれば、47・8歳の我が6期生の面々が同窓会のテーマに「青春」を持ち出すのはしごく当然の成り行きであって、なにを今更青春なんて、などと言う冷やかしは当たらない。しかし、今回はただの青春ではない。その頭に「ずっと」が付いている。ここのところが違う。だから、「ウフフ」などとうっとり昔を懐かしんでばかりいてはいけないのだ。

 中高年になっても、明るくはつらつとして、おしゃれでいつも元気がいい。そんな人のことを「あの人、青春してるね」と言うことがある。同世代のものとしては、まことにうらやましい限りの人なのだが、しかし、どうだろう、世の中に悩みや苦しみを持たない人などいるのだろうか。そりゃ、中には「ワシ、なーんも苦労なんかないもんね。金なんか腐るほどあるもんね、子供は優等生だもんね。この世はバラ色だもんね、とこしえに」などと言う人もいるだろうが、そんなものは例外中の例外だろう。
 きっと「青春してるね」と言われている人にだって、悩みや苦しみはきっとあるはずだ。いや、そういう人に限って人知れずたいへんな苦労をしていることを、後で聞いてびっくりすることがある。青春してる人の素敵なところは、その外見ではなく、抱えているであろうさまざまな苦しみを感じさせずに青春しているところにある。「ぼかァ、しあわせだな」のあの有名人しかり。この「ずっと青春」の代名詞のような人にも、いつ頃だったか、巨額の借金を背負って必死で返済していた時期があった。そんなときにも彼はりっぱに青春していた。苦労が人を成長させ、スケールの大きな魅力的な人間にするのだろうか。みごと完済した彼はますますいい青春をしているように見える。
 ひるがえって自分はどうであったか。我が家にある重大なできごとが起こって、私は眉間にしわを寄せ、ため息を連発させていたときがあった。そのとき「そんなふうでは人が寄って来るものか、仕事が来るものか、ましてや、福なぞが来るものか」と女房に一喝された。以後、生活の知恵として、カラ元気のパフォーマンスは演じられるようにはなったが、「青春してる」には程遠い。

 そうは言っても、だれも生身の人間なんだからいつもつっぱってばかりはいられない。たまには弱音も吐きたくなる。誰かに話を聞いてもらいたいときもある。しかし、いい年をしたおじさん、おばさんになればなるほど、そういうときの聞き手は選ばなくてはいけない。そんなときこそ同級生だ。赤点追試や早弁、さまざまな実態、痴態を知られている友にダメ人間ぶりをさらけ出してもちっとも恥にはならない。「バカヤロー」が温かい励ましの言葉だということを知るのもそんなときだろう。
 その代わり一歩外へ出たら「青春」していたい。それを「ずっと」続けたい。我々には米津の浜で鍛えた「足腰」と、砂の芸術で便器をこさえた「感性」、そしてさまざまな困難を乗り越えてきた「経験」があるではないか。浜松南高校卒業生には「ずっと青春」の条件が立派に備わっている。やってみよう。

 

同窓会当日、医学博士の金子満雄先生にも「ずっと青春」にちなんだ講演をお願いしました。
僕達は当日ステージの準備があり、残念ながら講演を拝聴できませんでした。
後日、実行委員の仲間から、「とても良いエッセイで、とても良いテーマだ」と金子先生に
おっしゃっていただいたとの報告があり、企画・実行の一部を担当させていただいた
KAZとしても、このエッセイのように苦しい時も「ずっと青春」を続けていけるように
頑張っていきたいと思っています。ご意見をお待ちしております。お気軽にメールをお寄せ下さい。

      

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